最近社会人2年目くらいの方とお話をする機会があったのですが、そこで気になったことがあります。最近の悩みとして「やらなきゃいけないことができない」ということで、その理由は「いやぁ、キャパがないんですよねぇ」でした。しかし彼の言うタスクは、朝の数分でできそうなことばかりで、できないはずはないのです。その時の話を追いながら、備忘録的にまとめておきたいと思います。
※多分に脚色を含みますが、本筋は曲げてません。
※私自身のコーチングについての知見は本を数冊と多少の講習を受けた程度で、職務や生業としているわけではないです。
「どうしたらいいと思う?」というプレッシャー
その時の会話はこの程度のものだったのですが、私はすごくモヤモヤしたんですね。これは果たして「自分で決めたこと」になるのだろうか、と。一見そう見えているだけで「言わせているだけ」じゃないかと。
すでにそこにある答えを「言わせている」
Aさんの仕事は営業です。課題は常に数字で見える化されています。当然、似たような課題を持つ人は身の回りに多いばかりか、歴史的にも何度も対策が打たれてきていることが多いわけです。
そうすると身の回りにはたくさんの前例や推奨タスクが溢れているんですよね。
そんな状況で「何が課題だと思う?」「どうしたらいいと思う?」と聞かれたところで、そんなことは普段から本人もわかっているわけです。
例えば新規顧客の売上が低いとなったときには「新規開拓ができていない」という状況は本人ならわかっていますし、「(みんなは普通にやっている)飛び込み件数増やします」みたいな話になるわけです。
そうすると、育成者がAさんに聞いていることって一見本人に考えさせているように見えて、ただ「言わせている」だけとも取れるんですよね。だって、新規の取引が少ないことなんて本人が一番わかっているばかりか数字ではっきり示されているし、新規の取引が少ない人なんてAさんだけじゃないのでそういった人たちがどうしているかは毎日目にしているわけです。
事実、営業会議などでは「○○を徹底しよう」「○○を頑張ろう」などの話が日常的にされているとのことでした。これではそれ以外の対策は口にしにくくなってしまいます。そこに暗黙のルールがあるからです。
コーチングの本質は対話を通じて相手の思考を促し、気づきを生むことだと思うんですが、これだと「こう言っとくのが正解だよな」というのをなぞらせているだけな感じがします。
結局やらない現実
その結果Aさんは、朝数分でこなせるはずのタスクを今でもできていないという状況に陥っています。表面的なやり取りだけで「自分が決めた」という体裁を繕ったところで、そこに本人の納得感がなければ行動は変わらないからです。
この後育成者とのやり取りがどうなるかは、想像に難くありません。
「なんでできてないの? 自分でやるって決めたよね?」
これです。
でも、本質的に、「なぜそのタスクがこなせないのか」に切り込まない限り、ただ問い詰めているだけになってしまいます。それではAさんのモチベーションは下がる一方でしょう。場合によっては精神的に参ってしまうかもしれません。
同時に、「自分で決めた」というカタチが、実は自分に対するエクスキューズになることもあります。Aさんは言いました。
「自分のことより、先にお客様への連絡先とか優先したいことからやってるんですよね。」
自分で決めたことは、自分の成長のため、つまり内向きのタスクなのです。対お客様への外向きの仕事に比べれば、優先順位が下がるという理屈です。つまり、本人はできていないことについて罪悪感を軽減させているのです。これは育成者とのすれ違いにもなります。「そんなこと言ったって、お客様対応が先でしょ」となってしまうからです。
部下ができないことの言い訳に、コーチングを使っていないか
更に懸念されるのは、本当は育成者の持って行き方にも問題があるのに、一方的にAさんだけが悪く評価されてしまう恐れがあることです。Aさんが成長できなかったときに「あいつは自分で決めたこともやりきれない」という評価がくだることです。しかしこれは見方を変えれば「あいつは根性がない」と言っているのと同じです。そこには具体的な指導もアドバイスもないのですから。
Aさんに必要なのは「飛び込みやります」と宣言させることではなく、どうせ飛び込みが大事なのがわかっているのなら「どうやって飛び込みを増やすか」を考えさせることではないでしょうか。あるいは少ない方法で飛び込みを成功させる方法や、そもそも新規成約を増やすという目的に沿って考えれば、飛び込み以外の方法にチャレンジする、でもいいはずです。本当のコーチングはそこに入っていくためにあるはずです。
最近の若手育成においては「一方的な押しつけはやめましょう」「本人の意志を尊重しましょう」などの方針がトレンドだと思います。企業理念を大声で唱和させるような研修は批判されるようになってきました。
そのような中でコーチング研修を取り入れる企業も多いのかもしれませんが、その本質を理解しないままに表面的に実施すると、今度は目に見えないカタチで若手を潰すことになってしまうのではないか。そんな気がしました。