実践共同体とは「気づき」の起こる場
実践共同体(Community of Practice)とは人が学びを促進するための共同体で、Lave & Wenger(1991)によって提唱された概念です。Wenger, McDermott & Snyder(2002)においては「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」と定義されています。具体的な研究事例としては、企業内の技術者達が開催する勉強会や、看護師たちの学習療法の勉強会、異業種交流会などが挙げられます。私はこの「相互交流を通じて」という部分が好きで、実務上の経験からもそこで得られる「気づき」が大きな学びになっているという実感があります。
実践共同体の要素としては「領域」「コミュニティ」「実践」の3つの要素が必要だとされています。私なりに平たく言い直すと、「何を、誰と、どうやって」やるのか、という感じでしょうか。こういったものが整っていれば、草野球チームも、企業内の勉強会も、OJTのチームも、実践共同体になり得ると言えるでしょう(ただし、そこに「問題と熱意の共有」があることが前提ですが)。
いわゆる学校教育的な「学び」との違い
古典的な学校式教育、つまり先生の一方的な授業では、知識はパッケージ化された状態で教えられます。しかし「学者の言うことは机上の空論だ」などと言われることがあるように、どのような状況においても必ず適合する知識ばかりではありません。むしろ、その時その場所だからこそ有用であることのほうが多いのではないでしょうか。そのような知識は教師が教えることはできません。LaveとWengerは、職人の徒弟制などの観察を通じて、人との関わり合いやそこで生じる社会的参加経験を通じてこそ、人の学びは促進されると考えたのです。
例えばパン教室に通うと、レシピというパッケージ化された知識があります。しかし、同じレシピ通りにやっても誰もが同じように焼けるわけではありません。生地をこねる力加減や、オーブンの火の入れ方など、練習の末につかめる感覚というものがあります。そういった感覚はトライアンドエラーの経験や、教室の仲間同士でコツを教わったり教えたりすることで、実践を通じた理解が進みます。この時、このパン教室は実践共同体なのです。
なぜ今、実践共同体なのか
実践共同体での学びにより、個人の成長や知識想像、アイデンティティ形成やイノベーションなどが促進されると言われています。特に、企業における実践共同体という観点では「二重編みの組織」と呼ばれる形態が重要で、これによって実践共同体での学びが組織に還元されることで企業の活性化までもが期待できるのです。
オープンイノベーションや副業を始めとする多様な働き方など、これまでにない課題に直面する日本企業にとって様々な示唆を与えてくれる考え方ではないでしょうか。